コウタ
「俺は末永コウタ通称、能力はまだない」
コウタ
「はぁ! 俺の身体に流れる赤き血よ! 我の力を解放しろ! たぁぁぁぁぁ!」
コウタ
「…ダメだ」
エリ
「アンタ、庭で何叫んでの?」
コウタ
「姉貴っ! え、えっと…その…能力のトレーニングたまよ。俺も末永家の人間だ、絶対に特殊能力が使えるはずなのに、まだ何も使えないんだよ」
エリ
「ふーん、まあ努力は認めるけど、そんな力んで覚醒するもんでもないでしょ。適当にしときなよ」
コウタ
「くそう! 姉貴は既に能力に目覚めてるから俺の気持ちなんてわからないんだよ! 俺の能力はいったい何なんだ。いつ使えるようになるんだ! 」
エリ
「そんなことより、これ見て。ほらネイル部分が光ってるでしょ。私の能力の発光芽(はっこうが)を爪先に集中させて光らせてるんだ~♪」
コウタ
「そんな能力の無駄遣いするなよ!」
エリ
「えー、めっちゃ有効に使ってるじゃん!」
コウタ
「この女性の名前は末永エリ。俺の姉さんで7歳の頃に能力が覚醒した。能力名は発光芽、光を発生させることができる。光を集中させ、それを一点の指先から発射させると分厚い鉄板ですら穴を空けることが出来るらしい。正直羨ましい能力だ」
エリ
「この前、エリちゃんって輝いて見えるよねって言われたんだけどさ。実際に光ってるんだよねー。こうやって肉眼でわかるかわからないくらいに光を調整して、ほら二割り増しくらい可愛く見えるでしょう! すごい発見!」
コウタ
「なんて無駄な能力の使い方……」
みちこ
「こら、あんた達遊んでないでそろそろ夕食が出来るから手を洗ってきなさい」
エリ
「はーい」
みちこ
「またフライパンダメになったわね。最近年のせいか火力の調整が難しくてね」
コウタ
「母さん、またフライパンをダメにしたの!? 能力は使わないでちゃんとガスコロンを使ってって言ったよね!」
みちこ
「面倒だし火力が弱いのよ。フェニックスバーストの方がすぐに火が通るし」
コウタ
「この女性は俺の母親であり炎の使い手、末永みちこ。ちょっとフェニックスを身体に宿しているごく普通の母親だ。よく調理道具を消し炭にする」
みちこ
「ほら、コウタ。お父さんを呼んできて」
コウタ
「はいはい、まったく。フェニックスの加護を何て無駄遣いしてるんだ」
コウタ
「父さん。母さんがもうすぐ夕食だって」
たかふみ
「……わかった」
コウタ
「この口数の少ない男性は俺の父。末永たかふみ。この家の大黒柱で能力は」
たかふみ
「(今日の夕食はなんだ?)」
コウタ
「…っ! 父さん、直接脳に語り掛けないで、それびっくりするんだから。すぐそこにいるんだから肉声で話してよ」
たかふみ
「…悪かった。昔の癖でな」
コウタ
「俺の父さん。末永かたふみは脳に直接声をかけることができる。地味の能力だが、この能力の陰で救われた命は数知れず。少し尊敬している」
コウタ
「……はぁ、家族全員は特殊能力があるっていうのに。なんで俺だけ何の能力もないんだ。そりゃ能力覚醒のタイミングは人それぞれらしいけど」
コウタ
「母さん、父さんに声をかけてきからもう来ると思うよ……って! 何してんの!」
エリ
「お母さん、私がピーマン嫌いなのを知っててわざと野菜炒めにピーマン入れたでしょ!」
みちこ
「いい年して好き嫌いしてるんじゃないよ! ほーら、アンタの皿は特別にピーマン大盛りにしてあげる」
エリ
「頭にきた! こうしてやるシャインリカバリア!」
みちこ
「う、しまった、光で目つぶし! だけど、そんなことをして一体どうなるのかしらね」
エリ
「相手が怯んでる好きに、私の皿とコウタの皿を入れ替えれば解決」
コウタ
「なんで俺なんだよ! しかも根本的な解決にはなってないよ!」
みちこ
「そんな姑息な手まで使って、今日という今日はピーマンを山盛り食べてもらいますからね!」
エリ
「絶対いや! こうなったら力づくでも逃げてやる」
みちこ
「あら。母親の私に勝てるとでも思ってるのかしら。フェニックスの業火で骨まで焼いてあげようかいら」
エリ
「こっちだって、わが身に宿るイシュタルの光で照らして、この世から消滅させてあげる」
コウタ
「めちゃくちゃ物騒なこと言ってる。ってか母さんと姉さんが本気で喧嘩したら東京が半分無くなるからやめて」
エリ
「遠慮はいらないわよね母さん」
みちこ
「どの口が言ってるのかしら、ピーマンも食べれない半人前の貴方に私が倒せるの?」
コウタ
「もうやめてって」
たかふみ
「(コウタ、コウタよ。聞こえているか)」
コウタ
「こいつ、直接脳内に! と、父さん! 大変だよ、母さんと姉さんが喧嘩してこのままじゃあ東京は消滅しちゃうよ」
たかふみ
「(コウタ。トイレットペーパーをもってきてくれ、トイレに入ったはいいが紙がなかった)」
コウタ
「うるせえよ! 役立たず親父!」
ポチ
「わん!」
エリ
「あ、ポチが鳴いてる」
みちこ
「あらやだ。私ったらポチの餌やりも忘れて」
コウタ
「あああ、ポチ! 助かったよ! このままじゃあ東京が消滅することろだった」
ポチ
「わん?」
みちこ
「母さんも大人げなかったわ、ただしピーマンはちゃんと食べるのよ」
エリ
「はいはい、ちょっとだけね」
コウタ
「…ふぅ助かった。こういう親子喧嘩が起きると能力がない俺はいつも窮地に立たされるんだよな」
たかふみ
「(コウタ、紙はまだか。トイレから出られん)」
コウタ
「役立たず親父め」
コウタ
「…ごちそうさま」
エリ
「どったの、元気ないねコウタ」
コウタ
「そりゃあね、皆は能力があるのに俺だけ何もない。このまま覚醒しないで終わるのかな何て考えちゃって」
エリ
「そっか、まあ別にさ。現代で生きるのにおいてさ特殊能力なんて必要ないんじゃない。それに私なんて夜歩いてたら虫が寄ってくるし」
コウタ
「え、光の能力ってそういうのもあるの?」
みちこ
「母さんなんて、クシャミしたらうっかり金属を溶かしちゃうしね」
コウタ
「……風邪の時、近づかないでね」
エリ
「それに焦ってたって能力が覚醒するわけ名じゃないし。いちいち落ち込まないの」
コウタ
「そう…だよな。落ち込んで何かが変わるかけじゃないしな」
たかみふ
「コウタ…お前は俺の子だ、いつかその時が来る」
コウタ
「……父さん。ありがとう。らしくないよな、俺が落ち込むなんて」
エリ
「そうそう、コウタは元気が一番」
たかふみ
「部屋に戻る。やることがある」
みちこ
「母さんも後片付けをしなきゃ」
エリ
「私もゲームでもしてこようかな。どうコウタ、一緒にする?」
コウタ
「ありがとう、でもいいや宿題あるし」
エリ
「世界で一番優しい姉をもって幸せでしょ?」
コウタ
「はいはい」
ポチ
「わんわん!」
エリ
「ポチが吠えてる。どうしたのポチ? おなか痛い?」
コウタ
「ポチ、大丈夫か!? 苦しそうだぞ、びょ、病院」
ポチ
「ワオーーーーーーーーン!」
エリ
「え?」
コウタ
「ポチが、大きくなった。いや、大きくなりすぎ。しかも毛並みも銀色になって」
ポチ
「…これは、そうか」
エリ
「ポチが喋ったぁぁぁぁぁ!!」
コウタ
「手から光を出せる奴が驚くなよ!」
ポチ
「コウタ、それにエリ。どうやら我も能力に目覚めたようだ」
コウタ
「ポチも能力に」
ポチ
「どうやら、この姿に変化させると人語を操れるようだ。それに力もみなぎる」
コウタ
「か、母さん! ポチが、ポチがなんかおっきい狼っぽい姿になって言葉も話せて」
みちこ
「あーはいはい。いま洗い物してるからまたあとでね」
コウタ
「だめだ、母さんは細かいことは気にしない性格だった。ぜんぜん細かいことじゃないけど。だったら父さんに」
たかふみ
「(推しにスパチャしたいけど、もう今月のお小遣いがなくて。いや、まだへそくりがあったはずだ)」
コウタ
「おい親父! 心の声が能力で漏れてるぞ! しかもいい年して推しにスパチャかよ」
ポチ
「驚かせて済まない。敵意はないコウタよ。安心しろすぐに元の姿に戻る。どうやらこの姿はとてもエネルギーを使うらしい」
エリ
「あ、縮んでいつものポチに戻った」
ポチ
「わんわん」
コウタ
「くそ! ペットのポチですら能力が覚醒したというに…俺は…俺はなんてダメな息子なんだ」
エリ
「うーん、確かにペットに負けたってなったら落ち込むよね」
コウタ
「俺は。俺はきっとこのまま能力がないまま一生を終えるんだ」
たかふみ
「(コウタ。コウタよ)」
コウタ
「今度はなんだよ! 推しにスパチャしたらコメントスルーされたか?」
たかふみ
「(流れは聞こえていた。あいにく父はこの能力のおかげで耳がいいかなら)」
コウタ
「……父さん。ごめんな、俺みたいな能力のない息子で」
たかふみ
「(気にするな、お前は仮に能力がなくても自慢の息子だ)」
コウタ
「父さん、能力を使うときはめっちゃ喋るんだな。でもありがとう」
たかふみ
「(それはいいとして、光道路紅サヤカってVがいるんだけど、一緒に見ないか)」
コウタ
「見ねーよ! 俺を巻き込むな! ……う…頭が痛い」
エリ
「どうしたの、急に頭を抑えたりして」
みちこ
「まさかコウタ、覚醒が始まったのか」
コウタ
「頭が割れるように痛い…こ、これが…目覚め。うわあああああああ」
コウタ
「て…手が光っている。俺も能力に…ついに俺も…」
エリ
「おめでとうコウタ!」
みちこ
「今夜はお赤飯だね。もう夕食終わったけど」
エリ
「さあ、コウタの能力をお披露目といこうよ」
みちこ
「家の物を壊すんじゃないからね」
コウタ
「手が熱い…こ、これが…はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
エリ
「手から何か落ちたよ」
みちこ
「これは唐揚げ?」
コウタ
「え? ちょっと待って。はっ!! たぁっ!」
エリ
「唐揚げがめっちゃ出てくる」
ポチ
「わんわん」
みちこ
「唐揚げを手から出せる能力みたいね」
たかふみ
「(能力名はレッドペッパーコカトリスとかどうだ?)」
コウタ
「そんなぁぁぁぁぁ! 俺の能力唐揚げなの!?」
ポチ
「そしてその後のコウタは」
コウタ
「はーい、熱々の唐揚げお待たせ。はい1200円ね。おまけに一つ付けてあげる」
ポチ
「学生でありながら、唐揚げ屋としてバイトをする日々を送った」
エリ
「一番現代でお金を稼げてるじゃん」
終わり