雨宮さんの日記

雨宮さんの日記です

ユーチュー部

アツシ
「再生回数が伸びねーーーーーーっ! このままじゃ部活が潰れちまうよ!!」

タイキ
「どうしたんですがアツシ先輩、こんな狭い部室で叫ばないでくださいようるさいんですから」

トオル
「悪いけど、本を読んでるんで静かにしてくれ?」

アツシ
「お前ら、それどころじゃないだろ。我々糸北高校ユーチュー部。YouTubeに部活の部でユーチュー部が廃部の危機なんだよ!」

タイキ
「…はぁ、そうなんですね。困りましたね」(適当)

トオル
「困った困った」(聞いてない感じ)

アツシ
「危機感を持てお前ら、このままだとユーチュー部が廃部になっちまうんっていうのに」

タイキ
「別によくないですか? 今時YouTubeなんてもう時代遅れですよ」

トオル
「そうそう、お前に無理やり連れてこられたけど活動らしい活動してないし」

アツシ
「お前らがそんなんだから伸びないんだよ、俺一人で活動させやがって」

タイキ
「それで、アツシ先輩は一体どんな動画を上げてるんですか?」

アツシ
「おーおー見てくれ、これが俺の自慢の動画たちだ」

タイキ
「えっと最近の動画から、変な形の石を拾ってみたパート16。ゲーム実況、レベル上げを5時間やってみたノーカット」

トオル
「やば、誰が見るんだよ、こんな拷問みたいな動画」

タイキ
「うわぁ、酷いですね、深夜にやってる明日の天気予報のがマシなレベル」

トオル
「おまえセンスねーわ」

アツシ
「あああああ、お前ら。黙って聞いていれば。サムネだけで判断するなよ。ほらこの石の動画なんて、パート7に拾った石よりも大きいんだぞ」

タイキ
「これは廃部決定ですね」

アツシ
「お、俺のユーチュー部が廃部になってしまうぅぅぅ」


  部室のドアが開く
  

ミナギ
「みんな聞いてくれ、大変なことになった!」(慌てながら)

タイキ
「あ、ミナギ先輩。どうしたんですか? そんなに慌てて」

ミナギ
「このままだとユーチュー部が廃部になる」

トオル
「おいおい、常識人だと思ってたお前までそんなこと言い出すのか。別にいいだろ潰れたって」

ミナギ
「違う、そうじゃなくて。ユーチュー部が廃部にするっていうのは、つまりだな、俺たちは部活に対して熱心に取り組まなかったってことだ」

タイキ
「えっと、それってどういうことですか?」

ミナギ
「顧問の話をそのまま伝えるなら、遊びで部活を作って潰したりするのは内申に書かざる得ない。つまり、俺たちの進路が絶望的になるっていうことだ」

トオル
「……は?」

タイキ
「え?」

ミナギ
「このままだと俺たちの将来が危ういってことなんだよ」

アツシ
「マジ…?」

トオル
「おい、どうしてくれるんだ。お前のワガママで俺たちはまともに進学できなくなったじゃねーか」

アツシ
「ちょっと待てよ! お前だってゆっくり本を読める場所があるならって賛同しただろ。同罪だよ同罪!」

トオル
「お前がここまでセンスがないなんて予想外だったんだよ。なんだよ再生数2って」

タイキ
「ちょっトオル先輩にアツシ先輩、落ち着いてください。圧倒的にアツシ先輩の才能がないとしても言い争いしても何も始まりませんよ」

ミナギ
「そうだな、アツシのセンスは絶望的だが、俺たちにも責任は1パーセントはあるかもしれない」

アツシ
「……そんなにセンスないの俺?」

ミナギ
「とりあえず顧問の話では、今からでも真面目に取り組んで、前向きな結果を出したら今回はお咎め無しということだ」

アツシ
「前向きな結果って、具体的になんだよ」

ミナギ
「ハッキリとは言わなかったが、会話からおそらくチャンネル登録者1000人。1000人行けば、真面目に取り組んだという評価だな」

タイキ
「せ、千人…? 千人って、あの千人ですか?1,10、100の次の」

トオル
「今日び、YouTubeでチャンネル登録千人とか無茶だろ、おい」

アツシ
「なんだ楽勝じゃん! とりあえずあと997人集めればいいだな」

タイキ
「どこからその自信が来るんですかアツシ先輩」

トオル
「ってか、3人しかいなかったんだな」

ミナギ
「……これは絶望的かもしれない」

 

 

ミナギ
「……というわけで、我が糸北高校ユーチュー部の廃部を阻止する為の緊急会議を開く」

タイキ
「そうですね、とりあえず何もしないより全然マシです」

トオル
「ったく、なんで俺までこんな目に合わないといけないんだよ!」

アツシ
「いいね、いいね。ユーチュー部っぽくなってきたな! 何する何する?」

トオル
「お前のせいだよアツシ」

アツシ
「でも、このまま黙ってても廃部は阻止できないぜ」

ミナギ
「何か、意見があるものはいるか。俺はその最近の流行りとか詳しくないんでな」

タイキ
「んー、どうだろう。ゲーム実況とかは絶対伸びないだろうし。大それた動画は学生の僕たちには無理だろうし」

トオル
「いきなり意見とか言われてもな、下手なことやったら伸びるどころか逆効果だろうし」

タイキ
「ちょっとスマホで調べてみましたけど、日常のヒント系とか伸びやすいみたいですよ」

ミナギ
「日常のヒント系? いったいなんだ? ポイントの貯めるコツとかか?」

タイキ
「料理とか、そういうコツとか簡単レシピとか。そういえばトオル先輩って料理が上手じゃなかったですか?」

トオル
「上手かどうかは知らん。俺が食いたいものを作って食うだけだ」

アツシ
「いいじゃん、それやろうぜ。トオルの顔出し料理動画」

ミナギ
「残念ながら、トオルはかなり強面だ。客が逃げる。この前、落ちた財布を拾ってあげたら泣きながら土下座されて逃げられたっていう話があるぐらいだから」

アツシ
「それやば」

トオル
「脚色スンナ、土下座はされてない」

タイキ
「それ以外は本当なんですね」

ミナギ
「とりあえず、我々が持てる手段はすべて使っていくしかない」

タイキ
トオル先輩の料理動画か」


(以下妄想シーン)
トオル
「おいお前ら、モニターの前のお前らだ。今日は簡単なハンバーグの作り方を教えてやる」

トオル
「…ふん、簡単な料理は確かにある。便利だし俺も時間がないときは、そういった料理を作ることがある」

トオル
「けどな、簡単な料理っていうのは料理を真剣にやったやつが作って初めて意味があるんだよ」

トオル
「手の抜き方を知ってるのは、どこで手を抜いてもおいしくできるか熟知してるやつだけだ」

トオル
「そんなわけで簡単なハンバーグだが…」

 

(シーン再開)

タイキ
「なんか、面倒くさそうな動画ですね」

アツシ
「目つき悪い奴が包丁持ってたら、即通報ボタン押さるんじゃないか?」

ミナギ
「センシティブの動画のため、再生できない恐れがあるな」

トオル
「勝手な妄想で、俺を変人にするな」

ミナギ
「料理は置いておこう、他に案はないのか?」

タイキ
「んー、ASMRっていうのも流行ってるみたいですね」

アツシ
「えーえすえむあーる?」

タイキ
「日常の音や、神経を刺激してリラクゼーション効果を促進する動画だそうです」

ミナギ
「なるほどな、疲れた日本人にぴったりだな。けどそんな音をどこで撮ればいいんだ?」

トオル
「日常っていうくらいだから、その辺の音でいいじゃないか?」

タイキ
「え、じゃあこの部屋の音を録音してみましょう」

ミナギ
「……」

トオル
「……」

アツシ
「……」

タイキ
「……」

アツシ
「へっくしゅん(くしゃみ)」

ミナギ
「却下だ」

タイキ
「ですね」

トオル
「でも今調べたが、ASMRは癒しの声でもいいらしいな、落ち着く声とか需要があるんだとよ」

アツシ
「だってさミナギ。お前の声は人気あるだろ。ちょっとやってみてくれよ」

ミナギ
「無茶ぶりが過ぎるだろ」

アツシ
「ほらほら、廃部を止めるためですよ。大学行きたいんでしょ?」

ミナギ
「……うっ」

 

(以下ミナギのASMR)

ミナギ
「お帰り、今日も疲れたんだな。じゃあちょっと癒してあげようかな?」

ミナギ
「とりあず教科書27ページを開いてごらん、素敵な方程式が並んでる」

ミナギ
「どれからやる? そうだね、俺のおすすめはゲーデル不完全性定理って言って」


アツシ
「誰が聞くんだよこんなのっ!」

トオル
「でも、ある種よく眠れるかもしれない」

タイキ
「癒し動画なんですよ! なんで帰ってから勉強しないといけないんですか!」

ミナギ
「な、なんだと。勉強は癒しの時間だろ」

タイキ
「これもダメみたいですね」

アツシ
「……っ」

ミナギ
「どうしたアツシ」

アツシ
「なんか、悪いなって思って」

タイキ
「アツシ先輩…?」

アツシ
「俺のワガママで始めた部活に巻き込んで、こんな目に合わせちまってさ。本当に申しわけないと思ってる。ごめん」

トオル
「おい、らしくないぞ」

アツシ
「俺も、ちゃんと伸びる動画を作る。俺に任せてくれないか?」

ミナギ
「そうだな、確かにお前が一番youtubeに詳しいのは間違いない」

アツシ
「じゃあ、ちょっと行ってくる」

タイキ
「え、あの。どこにいくんですか?」

アツシ
「どこって、形が良い石を探してくるんだ」(さわやかに)

トオル
「石から離れろよこのウスラトンカチ!」

ミナギ
「なんでこんなヘンチクリンな奴が、学年模試で一位で俺より高いんだよ!」

アツシ
「石いーじゃん、石だぜ石! 隕石だって鉱石だって」

タイキ
「アツシ先輩は無視しましょう」

トオル
「だな」

 


タイキ(ナレーション)
「その後、夜まで会議した結果。特に良いアイディアも浮かばず、とりあえず苦肉の策で今日出たアイディアを全部やってみるこになった。その結果……」


トオル
「再生数一万だと! 俺がカレー作ってるだけの動画で? どこの暇人だよ!」

ミナギ
「おかしいな、俺が勉強を説明してる動画に『よく眠れました』ってコメントがついてやがる。学べよお前たち」

タイキ(ナレーション)
「ちなみに、アツシ先輩は馬鹿だけど頭がいいということもあって。適当に提案した勉強法の解説動画が地味に伸びている」

アツシ
「どの動画から伸びたんだ……って、なんだこれ? こんな動画いつ上げた?」

タイキ
「あ、それですね。僕が日常の音を録音してるときにそのまま切り忘れちゃって。せっかくだしyoutubeで伸び悩んでる人たちが検索してくれるとおもって、あの時の会話全部動画にしてあげちゃいました…てへ」

アツシ
「まあいっか! よーし今日もレベリング耐久10時間配信だ!」